円筒分水の知識
円筒分水や分水に関する情報を掲載しています。
★分水とは
 分水にはいくつかの方法があります。
 「土地改良事業計画設計基準〔水路工〕基準書」によると、次のように分類されています。
分水工の種類 長所 短所
定比分水工 背割分水工 ・構造が簡単
・施設建設費が安い
・分水による損失水頭はほとんどない
・上下流水路の水位の変動によって分水比は影響を受けやすい
  射流分水工 ・射流のため、分水比は下流水路の水位条件による影響を受けない
・分水比の精度が高い
・分水による損失水頭は比較的小さい
・上流水深の測定により流量を把握できる
・背割り分水工に比べて、施設用地が多く必要
  円筒分水工 ・数多く分水することができる。
・分水比は安定している
・損失水頭が大きい
・施設建設費が高い
操作式分水工 ゲート式分水工やダブルオリフィス分水工など ・機構が単純で、配水操作に弾力性がある ・配水管理に手数を要する
・分水量は上下流水位に対して不安定になりやすい
定量分水工 水位調節ゲートとディストリビューターの組み合わせなど ・水管理が容易で効率的な配水ができる ・施設建設費が高い

★背割分水工
 背割分水でよさそうですが、なぜ、円筒分水が必要なのか考えてみましょう。

背割分水工で、水を3等分に分けようとします。
 B : 水を分ける前の水路の幅
 b : 水を分けた後の水路の幅
 B=3・b の関係とします。
一見、均等に分けられれいると思われますが、
実は、真ん中の水路に一番水が流れます。
これは、次の理由によるものです。


水路の流れは、真ん中が速くなっています。
水が流れる量(流量)は、次式で表します。)
Q=A・V  (等流の場合)
 Q : 流量(m/sec)
 A : 水が流れる断面積(m
 V : 流速(水が流れる速さ)(m/sec)
水路の幅(b)は等しく一定ですので、流量(Q)は流速に比例して大きくなります。
これは、水路の壁との摩擦の影響を受けるため、流速が3次元的に異なるためです。
流速分布ともいいます。


それならば、流速を考慮して、断面積を変えれば均等に水を流すことができると考えますね。
分水された流量が等しくなるように水路の幅を調整してみましょう。
b1>b2 の関係で、それぞれQが等しくなったとします。
ところが、また問題が発生します。


作物の生育段階や、渇水などによって、上流から流れてくる流量が減ってしまったとき、どうなるでしょう。
水深 h が小さくなると、水路内の流速分布が変化し、水路中心部の流れが遅くなります。
真ん中の水路に流れる水が少なくなってしまいました。
均等に水を分けるのは難しいですね。


2等分なら問題ないと思いますね。
でも、これにも問題があります。


Aの水路(図面下側)の下流でたくさん水を使ったとします。
水をたくさん使うと、水位(h2)が下がるので、@の水路よりも多くの水が流れてしまいます。
「水を使ったもん勝ち」の状態になり、公平ではありません。

★射流分水工

背割分水工の欠点を補うことができる分水工です。
常流と射流を理解すると問題は解決します。(外部リンク:「環境の大学」)
射流を起すことで流速分布が一様になるので、分水の精度が向上します。
また、射流は下流水位の影響を受けないので、水を使ったもん勝ちということもなくなります。


★円筒分水工

背割分水工の欠点を補う分水工です。
サイフォンにより下から吹き上げられた水を、同心円上に越流(またはオリフィスによる)させることにより、用水を均等・厳格に分けることができます。
さらに、円筒分水はその公平性が「誰の目にも明らか」なので、水争いの解消にも役立っています。

沿 革
○放射式分水装置の発明
明治44年、岐阜県南宮池に可知貫一氏によって考案された扇形分水装置が設置される。
大正14年までに実施された「小泉村耕地整理事業」において、扇形分水装置を改良した円筒分水工が可知氏によって考案。なお、円筒分水第1号は大正3年に完成した。
当初は、分水装置の上に鍵付きの木製蓋で覆い、水の管理人以外は手を触れることのない厳粛な装置だった。
○高価な水の分配
富国強兵策による開墾の奨励で、水を確保するためにダム(ため池)が造られたが、水を得るのに高額な金銭が必要なことから、高価な水の公平な分配のため、この装置が考案された、
○多孔から溢流へ改良
当時はオリフィス(孔)の数で分水量を決定していたが、孔は塵芥や草で詰まりやすく、後年は改良型の溢流式が主となった。
○水争いの解消へ
当初は「高価な水の公平な分配」が目的であり、西天竜幹線水路円筒分水群などでも同様に適用されている。
その後、流量の大小に係わらず均等な水の分配が可能なことから、水争いの解消のため全国各地で設置されはじめた。
○射流分水工へ
昭和中期になると射流分水工が考案され、次第に姿を消すこととなる


円筒分水の種類 型式による分類 扇形分水 円筒分水の原型。流速分布(速度水頭)を解消するための扇形溢流堰と同心円からなる分水堰からなる。
    オリフィス型 可知貫一氏が考案した放射式分水装置。岐阜県可児郡小泉村(現多治見市)の耕地整理事業で第1号が完成。オリフィスの孔数によって分水比が分かるほか、内円筒内の水位を計測することで流量を算出することができる。塵芥による目詰まりが弱点。
    溢流型 円筒分水の最終型。越流部を格子状(スリット)とすることにより分水比を明確化。また、全面溢流型では溢流長の比率によって分水比を設定。
  立地条件による分類 扇状地扇頂部 河川からの取水は上流ほど有利であるが、水路の開削競争は扇状地扇頂部に到達することが多い。このため激しい水争いの記録が残されていることが多く、扇状地の要であるとともに、分水の要となっている。
    河川横断部 河川をサイフォン(伏せ越し)で横断した後、サイフォン吐口で分水する場合に、円筒分水が有利となることがある。
    機場併設式 平地にある円筒分水で、湖沼や河川からポンプで汲み上げられた水を高台で分水する方式。
    水路からの分水 水路によって運ばれた水を分水する。
円筒分水の偉人 可知貫一 岐阜県阿木出身。農業土木技術者。岐阜県内の耕地整理事業で放射式分水装置を考案する。毎秒1立方尺の水源単価が1万5千円(当時)を超え水価が高騰するなかで、「いささか神経過敏」と前置きしながらこの装置の有効性を立証。
後に巨椋池、八郎潟干拓にも参加。京都帝国大学教授。
   子安茂一 岐阜県技師。岐阜県内の耕地整理事業において、可知貫一氏が考案した放射式分水装置を施工・監督。完成を遂げる。
  平賀栄治 二ケ領久地円筒分水の設計者。
  穂坂申彦 第3代西天竜耕地整理組合長。
西天竜幹線水路からの配水不具合(不公平さによる水争い)を解消するため円筒分水を導入。以降、保坂式分水池と呼ばれた。
   京野孝之助 秋田県議会議員。
富国強兵策による新田開発により慢性的な水不足に陥った六郷地区。さらに、昭和6、7年が大干ばつになり水争いが激化。流血惨事となった。この水争いを治めるために関田円形分水の導入に尽力し、水争いを解消させた。当時は西天竜と並ぶ最新の分水方法であったという。
  千葉 孝 農林水産省技師。
胆沢平野土地改良区に円筒分水を導入することを提案し、初代徳水園を設計、施工管理も指揮した。徳水園の設計にあたっては下九沢分水池を参考にしている。
これにより、400年以上にも及ぶ水争いに終止符を打った。
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